写真分析➀

 Instagram(@kemono_ph)で投稿した過去の写真を徹底分析。自分自身の好きな構図や色調をはっきりさせて、写真に何を求めているかを知りたくなり、初めてみました。頑張る。

 

 

1.トキの森公園(2022.8)

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額縁構図、曲線性、不完全性の美

 構図は丸い額縁構図。構図を決めるということは、鑑賞者の視線をどのように誘導させるかを決めるということ。強烈な吸引力をもって被写体に視線をひきつけることこそが、額縁構図最大の特徴であり有効な表現方法である。写真は中心から左にずれた位置に被写体があるが、敢えて矯正しなかったことで不完全性の美が生きている。

 ヒトの視線は、暗いところから明るいところへと誘導される傾向にある。つまりシャドウで囲った額縁構図は効果が大きい。僕は額縁構図が好きだが、そのほとんどが黒で囲ったものだ。

 この写真の魅力は構図に留まらない。先述した通り、不完全性に満ちた一枚になっている。被写体の中心位置からのズレ、ブレによるピントの甘さ、適度な粒子感。これらがくどくなく、少しずつ心地よい量感で混合することで、この写真ならではの面白さが生まれている。

 不完全性が生きている写真はこれから先でもたくさん見られる。フィルムカメラはその不完全性を既に備えているためそれにすればいいのかもしれない。が、デジタルだからこそ工夫を凝らして不完全性を演出する楽しさを感じられる。それが好きなのだ。

 

2.笠間(2022.5)

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白飛ばし、不完全性の美

 「白飛び」「黒潰れ」は写真を撮る者としてできるだけ避けなければならないものだとされている。それぞれカメラ内蔵センサーが許容できる光量の上限値・下限値を超えた光量を感受した・感受できなかったとき、真っ白・真っ黒になる現象を意味している。

 僕は白飛びを表現技法の一つとして使用することが多い。なので能動的な意味を持たせて白飛ばし、と呼ぶことにしている。

 明暗のコントラストを際立たせたい時、白飛ばしを使う。写真は、光を浴びた初夏の植物の密集感を表現しているが、仮に白飛ばしを適用しなかった場合、全体的にのっぺりとした特徴のない印象になるだろう。白飛ばしを取り入れることで写真の明暗に張りが出る。見ていて爽快感のある雰囲気に仕上がると考えている。

 また、特に深く考えずに撮影されたような構図や適度な粒子感をもって不完全性の美が潜在していることは言うまでもない。フィルムライクな印象に仕上げた。

 

3.諏訪(2020.8)

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日の丸構図、立体感、ブルーのアクア化、不完全性の美、16:9

 日の丸構図ほど万能であり最強の構図は存在しないだろう。構図は何が好きかと問われれば、迷うことなく日の丸構図と回答する。

 「鑑賞者の視線誘導を促しにくく、動きやダイナミズムを感じづらい日の丸構図。しかしそれは裏を返せば静謐で安定したイメージの表現に向いているということだ」と、フォトグラファーの嵐田大志氏は述べている。僕もそう思う。日の丸構図は主題が明確であり「まずは中心を見ればいいんだな」という安心感を鑑賞者に与えてくれる。左右の空間幅が同等であることでバランスがとれ、音の少ない静かな写真に仕上がる。

 写真は夏の大きな雲をとらえたものだが、夏雲特有の立体感を表現するため、明暗のコントラストを強めた。僕がよくやる手法だ。

 色調はブルーをアクア化している。空を表現するときによく使う手法だ。これについてはまた後程詳述することにしよう。今回はアクア化に伴い輝度も下げることで雲の明度の高い白を際立たせることに成功。

 最後に、不完全性の美。今回もまた粒子を乗せることで日本の夏のノスタルジーを演出。

また、通常のアスペクト比3:2ではなく横に長い16:9でトリミングしたのも、映画に似た比率でドラマチックに仕上げるためである。

 

4.桜島フェリー(2020.3)

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人物と風景、額縁構図、色調の統一感

 自然風景、街角スナップ、人物ポートレート。目に映るものすべてが表現の対象であるがゆえに写真のジャンルは多岐にわたるが、僕が一番好んでいるのは「人物と風景」である。

 写真は桜島へ向かうフェリーで、遠方を眺める男性を写したものだ。この写真のメインとなる被写体は男性。しかしその向こう側にある風景もまた存在感を発揮している。望遠(130mm)で撮影しているため写真面積における男性の割合が大きいが、男性の視線の先に広がる海風景が、穏やかな空気感に包まれた写真を作り出す。

 僕が「人物と風景」の写真を撮るときに好きな焦点距離は20mm程度のやや広角気味。このくらいだと、人物と風景の影響力や存在感がちょうど1:1になる。どちらが欠けても物足りない一枚になる。

 額縁構図。左側と下側の船体で男性と風景を囲んでいる。視線の誘導を自然に促す効果を発揮している。

 また、この写真の印象として色調が統一されており見心地がいいことが挙げられるだろう。シャドウにグリーンを乗せ、ハイライトに若干のイエローを乗せた。曇天時の写真ほど編集技術が重要なファクタになるが、一つの最適解を発見したのはこの頃が初めてだ。

 

5.ちょーちょむすび(2022.11)

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足し算

 仙台に住む友人達のもとへ。大学時代に何度も訪れた仙台だが、友人がいなくなれば訪れる理由も無くなる。ひょっとしたら最後の仙台旅行になるかもしれない、そんな日だった。

 ちょーちょむすびという居酒屋で日本酒を注いでもらっている様子を撮影したものだ。店員さんが、撮りますか?と気さくに提案してくださった。温かい言葉を浴びて、料理もお酒もいっそう美味しい。

 居酒屋や飲食店でのテーブルフォトも最近は楽しくなってきた。30mmの単焦点でボケを演出。酔っぱらったときの焦点の合わなさとF1.4がマッチしているのか、その場の空気が蘇る。温かい写真になる。

 分析するのも野暮なくらい、良い写真。敢えて分析するとすれば、写真は引き算と言われるなかで居酒屋のごちゃつき感を足し算で表現した。オーソドックスから外れた手法も、使い方次第ではプラスに働く。

 

6.KITTE(2019.8)

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平面フレーミング

 平面フレーミングは、今や僕が建築写真を撮影するときに必ずといっていいほど用いるフレーミング手法である。建築物に対して真正面に立ち、余計なことは考えず垂直・水平方向に偏りがないように撮影する。大きな建築物を撮影する際は垂直方向に傾くため、補正が必要になる。四角の隅まで無駄がなく広がるフレーミングであるため、インパクトを求めるなら平面的に(かつ大胆に)切り取ると効果的だと感じた。

 

7.新宿駅(2021.11)

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色の独立性

 JR新宿駅を高所からとらえた写真。シンプルでクールな印象を抱くが、その要因は色の独立性にあると考える。

 空のブルー、駅名サインのグリーン、広告看板のレッド、道路のブラック。それぞれの色相が偏ることなく独立し、その色として堂々と生きていることが、この写真の「強さ」の根源だ。さらに明暗のコントラストを強く設定することで、他の写真を寄せ付けないインパクトを残す。

 写真に爽快感を求めてブルーのアクア化を安易に選択するのではなく、風格ある写真を求めて原色を強める勇気も重要だ。

 ちなみにNikon Zfcを携えてほぼ初めて出かけたときの写真。設定方法をよく理解しておらずホワイトバランスが低いまま撮影していたため、道路部分を含め全体が暗めに仕上がった。ミスから生まれる名作もあるのだ。コカ・コーラ然り、ペニシリン然り。

 

8.農舞台(2020.11)

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額縁構図、直線性、曲線性、二色作用、セルフィ―、余白の美、不完全性の美、1:1

 シンプルでありながら多くの効果・作用が詰め込まれた一枚。場所は新潟県十日町の農舞台の男子トイレ。

 ジャンルとしては正円の鏡に映した「セルフィ―」の一種で、構図は額縁構図に分類されるだろうか。1:1の正四角形のなかにころんと転がった丸が小さく収まっているのが可愛らしい。

 この写真の傑出している点は2つ。第一に直線性と曲線性が同時に発揮されていること、第二に二色作用による視覚効果が目覚ましいことだ。

 1:1のアスペクト比Instagramの普及とともにメジャー化した。その最大の魅力は直線の密集にある。縦横の枠線が最接近した図形が正四角形すなわち1:1であるため、このアスペクト比にするだけで高度な直線性を演出できる。さらに正円が組み合わさることで幾何学的リズムが生み出され、一目見てワクワクする写真へと進化した。

 色調はオレンジとブラックの二色にのみ依存している。モノクロームの一つ上の次元であり、ある意味ミニマリズムに則っている。「写真は引き算」の原則に従えば究極の色彩はモノクロームになるはずだが、僕にとっては二色くらいが丁度いい。視覚的に面白く、ぱっと見の印象を強化するには、二色作用を取り入れることは効果的。

 

9.母子島遊水地(2021.5)

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日常性、余白の美、1:1

 この写真のどの部分が好きかをじっくりと考えたとき、今までの写真には無い「日常性」が全面的に見て取れることが挙げられる。

 ここで言う日常性とは「写った人々の感情や意思が生活の一部を通して感じられること」である。決して町の様子をただ単に写したものすべてに表れているわけではない。例えば【6.KITTE】【7.新宿駅】も誰かにとっての日常を写していることに変わりないが、行き交う人々には感情や意思が宿っていない。対してこの写真では、野球を楽しむ人々の感情や意思、人間らしさが確かに存在しているのだ。僕はそんな写真を魅力的だと思う。

 アスペクト比1:1の効果により可愛らしい。明度の高いグリーンとレッドも可愛らしさに拍車をかけているようだ。さらに写真上半分を余白として用いることで開放感をもち、鑑賞者にのびのびとした印象を抱かせる。これらの要素がすべて「日常性」を演出するのにうまく掛け合わさっている。

 僕にはなかなか撮れない、可愛い写真。

 

10.豊島(2022.8)

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額縁構図、ブルーのアクア化

 この写真は夏の豊島に生い茂る木々の中を、自転車に乗って走っていたときに突然現れた、穏やかな瀬戸内海が見える高台から撮ったものだ。この写真単体でも額縁構図やブルーのアクア化の効果で魅力的に捉えられるが、撮影者である僕にとっては視界が開けた瞬間のいわば「思い出補正」がかかっているために大切な一枚となっている。

 写真とは「見た人がどう感じるか」が大事。だから上記のような思い出補正など写真分析の名目で語るのはナンセンス。分かる。

 分かるが、撮影者である僕も、紛れもなく写真を見る人なのである。もっと言えば、僕の写真の最大の理解者は僕である。自己満足と言われればその通りだと堂々と答えよう。「この写真がなぜ美しいのか」を説明するには、僕の当時の内情を介入させずにはいられない。

 古今和歌集をはじめとする和歌集においては、和歌が詠まれた背景を「詞書」として記している。背景を開示することで作品を少しでも味わい深く鑑賞してもらおうとしたのだ。写真と和歌のもつ表現的な特性は全く異なるが、作品の制作者の想いや心情が強く写っている写真には惹かれる。

 しかしまあ主観ばかりでは面白くないし傲慢を極めた悲惨な末路に続いていきそうなので、できるだけ客観的な分析をしていこう。色々書いてみることが大切。